◆ご相談の経緯
ある飲食店経営者の方が資金調達の相談に来られました。内容はシンガポールへの出店資金4,000万円の調達です。
状況をお聞きしたところ、「シンガポールのプロジェクトとは別にある駅ビルへの出店プロジェクトが進んでおり、お付き合いしている金融機関とはそちらの案件で融資の話を進めているため、本件の相談はできない」とのことです。よって日本政策金融公庫(国民生活事業)に相談をしてみたところ、「融資枠が上限に達しているため新たな融資は難しい」との回答があったようです。状況的にはいくつか気になる点がありましたが、社長様の事業に対する熱意や、丁寧な計数管理を行っている様子が伝わりましたので、資金調達のお手伝いをさせて頂くことにしました。
◆企業概要
- 事業内容:飲食店8店舗経営
- 業歴:7年
- 売上高: 2億9,000万円
- 営業赤字: 180万円
- 有利子負債:6,800万円
- 資本金: 100万円
- 純資産: 70万円
◆財務分析
資金調達のご依頼を受けて、弊所が最初に取り組むのは財務分析です。
返済力がどれぐらいあるか?実態債務超過に陥っていないか?といった財務状況を調べます。財務分析をした結果、以下の点が分かりました。
- ポジティブな材料として、営業赤字ではありますが、当社の年間返済可能額は1800万円あることが分かりました。
- ネガティブな材料として、実態の自己資本は70万円(自己資本比率0.6%)しかなく、企業体力が殆ど無い状況であることが分かりました。
ネガティブに見られると「自己資本が薄く安全性が低い」で終わってしまいますので、何とかこの点を払拭しなければなりません。
◆弊所では、以下のストーリーで説明することにしました。
「当社は元々飲食店のコンサルティングを主事業としてスタートしたため、資本金は100万円と小さく飲食店を経営するには過小資本と言えます。自己資本が薄いことは事実ですが、100万円の元手からスタートして、7年後に1,800万円の返済力を有する企業になったことは、逆に社長様の経営力の高さの表れと言えます。最初は小さな店舗で営業を始め、着実に利益を上げながら、徐々に大きな店舗にシフトをしてきました。これまで2度店舗を閉鎖したことがありますが、より大きく立地の良い店舗へ移転するためのものであり、赤字による撤退は1度もありません。自己資本の薄さを否定的に捉えるのでは無く、100万円の元手でここまでの事業を作り上げた社長様の経営手腕を評価してもらえないでしょうか。」
◆事業計画書の策定
社長様が漠然と考えておられた事業イメージを基に綿密な計画書を作成しました。金融機関が特に気にする「投資と調達の計画」と「借入金の返済計画」に重点を置き、それぞれの計画を補完する裏付けを示すようにしました。また、海外展開資金とお聞きした時から、政府が進めている「クールジャパン戦略」に連動した日本政策金融公庫の融資制度を利用しようと考えていたため、クールジャパン戦略の目的に沿った事業になるよう、計画段階から気をつけました。
◆金融機関の開拓
日本政策金融公庫の国民生活事業は、融資枠が既に上限に達しているとの事でしたので、日本政策金融公庫の中小企業事業に電話を入れました。連絡は社長様からでは無く、顧問税理士事務所である弊所から連絡をするようにしています。初めてお話をする担当者でしたが、概略をお話したところ、詳しいお話を聞きたいとのことでアポイントを取り付けました。
◆金融機関との事前打ち合わせ
金融機関は、社長様の熱いお話を聞くよりも、先に財務状況を確認したいというのが本音です。
本件についても、まずは先生だけで財務の状況を説明しに来て欲しいというリクエストでしたので、社長様の了承を得て、決算書類、財務分析シート、事業計画書をお持ちして財務状況と計画の概略を説明しました。
財務分析シートを準備することで、財務のポイントについて短時間で的確に話を進められます。
◆社長面談
事前打ち合わせから数日後に社長面談がありました。事業について熱く語る社長様に対して、金融機関の担当者も私と同じ印象を持って頂けたようです。
◆最終結果
その後、積極的に話を進めて頂き、極めてスムーズに決裁が下りました。営業赤字の企業が4,000万円の資金調達を成功させたと聞くと、何らかの裏技があるのでは?と思われるかもしれませんが、ご説明したことが全てです。元々素晴らしい仕事をされていた社長様の話を丁寧に聞き取り、その内容を金融機関の言葉(数値)に置き換えて資料を作成し、正しい相手を選んで話を進めただけです。
説明不足による誤解が原因で資金調達に苦労している企業様も多いように感じます。
是非、当協会のサービスをご活用ください。